労災保険は、私たちが仕事をする上で、事故や災害による損害を補償してくれる制度ですが、実際、どのような場合に、どのような給付が行われるのでしょうか。労災保険の給付種類について詳しく見ていきましょう。
あいててて。
どうしたんですか、お腹が痛むんですか?
今朝、通勤中に自転車とぶつかっちゃってさ。
なんだか歩くと足が痛むんだよね。
それは大変!
もしかしたら骨にひびとか入っているかもしれませんね……。
私も付き添いますので、すぐに病院へ行きましょう。
放置しておけばすぐ治るさ。
病院にかかるお金ももったいないし。
歩くと痛むのでしたら放っておけませんよ。
それに、通勤中に起こった事故なら労災保険が適用されますからお金の心配なんてしなくていいんです。
うーん、なら病院に行こうかな……。
じゃあさ、夜間病院が開くまで少し時間があるし、それまで労災保険について詳しく教えてよ。
ちょっと気になる。
その代わり、話を聞いたら絶対に病院行ってくださいよ?
絶対の絶対ですよ!!
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目次
1.労災保険について
ご存知かと思いますが、労災保険とは労働者が業務上の理由からケガをしたり病気になったり、または障害を負ったり死亡してしまったりした時に、その労働者や遺族に保険給付が行われるものです。働く人を守ってくれる保険のことですね。
正式名称は、労働者災害補償保険といいます。今回のように、通勤中でも労災保険は適用されるんですよ。
労働者に優しい保険だね!
そうですね。労災保険は会社が加入するものなので、個人で入る必要はありません。会社に属していれば自動的に加入されるんです。ちなみに、給料から労災保険料が引かれることはありませんよ。全額会社が負担してくれます。
労災保険って、パートやアルバイトでも適用されるの?
もちろん適用されますよ!労災保険を利用できるのは、アルバイトやパート、それに派遣や日雇いの人も含めた会社から賃金をもらって働いている人全員です。
2.どんな時に労災保険が適用されるの?
では、どんな時に労災保険が適用されるのか、詳しく見てみましょうか。
2-1.仕事による労災 ~業務災害~
労働者が仕事をしている時に、その業務が原因でケガをしたり病気になったり、または障害を負ったり死亡してしまったりすることなどの被害を業務災害と呼びます。
業務と一定の因果関係を持っていることが前提なので、以下のような場合は業務災害に含まれません。
- 業務中に、業務を逸脱した行為や私的な行為が原因となって被害を受けた場合
- 故意に事故や災害を起こして被害を受けた場合
- 個人的な恨みなどによって、第三者からの暴行で被害を受けた場合
- 地震、台風などの天災地変によって被害を受けた場合(天災地変に際して、災害を被りやすい業務の事情がある時を除く)
はい、その通りです。なので、業務を行っていない休憩時間なんかに、個人的な理由でケガなどをした場合も業務災害に含まれませんよ。
仕事中に負ったケガなどでも、この業務災害に含まれないものだと労災保険が適用されないので気を付けてくださいね。
2-2.通勤による労災 ~通勤災害~
通勤によって、労働者がケガをしたり病気になったり、または障害を負ったり死亡してしまったりすることなどの被害を通勤災害と呼びます。ここでいう通勤は、以下のような移動のことをいいます。
- 住居と仕事場の往復
- 仕事場から別の仕事場への移動
- 単身赴任先の住居から帰省先の住居への移動
これらの移動は通勤として扱われますが、合理的な経路や方法を取っている必要があります。
はい。合理的な経路とは、通勤のために通常利用する経路や、当日の交通状況により迂回した経路などを指します。合理的な方法は、電車やバスなどの通常用いる交通方法のことですね。毎日利用している経路や交通方法はもちろんのこと、人身事故によって電車が止まってしまったので、タクシーを利用して違う経路で通勤した場合などが、この合理的な経路や方法に当てはまります。
例えば、会社からの帰り道で、ぶらぶらと帰宅の経路ではないところを散歩していたり、仕事場からまっすぐ帰らずに居酒屋なんかに寄ったりした場合。これらは私的な利用で遠回りしたり、どこかに立ち寄ったりしているため、合理的な経路や方法から外れます。なので、その際の移動は通勤として見なされなくなるんですよ。
通勤として見なされないんだったら、その間の移動に、事故に合ってケガを負ったとしても、労災保険は適用されないってわけか。
僕の場合は、特にどこかへ立ち寄ったわけでもないし、まっすぐ仕事場へ向かってたから、しっかり通勤と見なされるわけだね!
はい、ちゃんと労災保険が適用されますよ。ちなみに、通勤中にどこかへ立ち寄っても大丈夫な例外があります。以下の場合は、厚生労働省で例外として定められています。
- 日用品の購入その他これに準ずる行為
- 職業能力開発促進法第15条の6第3項に規定する公共職業能力開発施設において行われる職業訓練(職業能力開発総合大学校において行われるものを含む)、学校教育法第1条に規定する大学において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に質するものを受ける行為
- 選挙権の行使その他これに準ずる行為
- 病院または診療所において診察または治療を受けること、その他これに準ずる行為
- 要介護状態にある配偶者、子、父母、配偶者の父母並びに同居し、かつ、扶養している孫、祖父母および兄弟姉妹の介護(断続的にまたは反復して行われるものに限る)
参照:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署 労災保険給付の概念
つまり、日用品を買ったり、病院に行ったりする場合なんかは通勤中にしてもOKとされ、その際にケガをしてもちゃんと労災保険が適用されるというわけですね。
2-3.第三者における災害
仕事で道路を通行中に建設現場からの落下物に当たったり、通勤途中に交通事故に遭ったりなど、第三者によって被害を受けることを第三者行為災害と呼びます。
第三者行為災害を被った時も、労災保険が適用されますよ。ただ、基本的に自分が受けた被害は第三者に請求することが多いですね。
第三者による支払いがあった場合は、第三者と労災保険の支払いが二重になって受け取ることがないように、調整されるみたいです。労災保険からの支給がなくなったり、第三者で補えない部分だけが労災保険から保障されたりなど。
ちなみに、自分が仕事中や通勤中に、加害者となって第三者を傷つけた場合の賠償金については、労災保険は保障してくれません。あくまでも自分が第三者によって被害を受けた場合に労災保険は適用されるものですので、間違えないように。
3.労災保険の給付種類
次に、労災保険の給付にはどのような種類があるのか見てみましょう。
3-1.療養補償給付・療養給付
仕事中や通勤中に、業務上の理由からケガを負ったまたは病気になってしまった場合、療養(補償)給付が支給されます。
療養(補償)給付には、労災病院や労災指定病院で無料で治療を受けられる「療養の給付」と、労災病院や労災指定病院以外の病院などで療養した場合に支払った費用を、現金給付として受け取る「療養の費用の支給」があります。
療養(補償)給付の対象となるのは、診察料・薬剤費・治療費・入院費・看護料・移送費といったものです。
3-2.休業補償給付・休業給付
仕事中や通勤中のケガや病気が原因で、仕事を休んでしまった場合、その際に支払われなかった賃金の代わりとして支給されるものが、休業(補償)給付です。
医師から休業が必要だと診断された日から4日目にあたる日より、休業(補償)給付の支給対象となる休業日数がカウントされ始めます。
支給される金額は、過去3か月間の給料(ボーナスなどを除く)をその3か月分の日数で割った金額をもとに計算します。この金額のことを給付基礎日額(1日あたりの賃金額)と呼びます。計算式は以下の通りです。
休業(補償)給付=(給付基礎日額×80%)×休業日数
例えば、過去3か月が6・7・8月、給料が30万円、休業した日数が10日間の場合。
900,000円÷92日=約9,782円 (約9,782円×80%)×10日=約78,256円となり、支給される金額は約78,256円 |
3-3.傷病補償年金・傷病年金
仕事中や通勤中に負ったケガや病気が、療養してから1年6か月経っても治らなかった場合、傷病(補償)年金が支給されるようになります。傷病(補償)年金が支給されるようになると、休業(補償)給付は支給されなくなります。一方で、療養(補償)給付は引き続き支給されますよ。
ニュアンスとしては、1年6か月経っても治らなかったら休業(補償)給付から傷病(補償)年金
に変わる、といった感じだね。
はい。傷病(補償)年金で支給される金額は、傷病等級という等級によって決められます。
等級が第1級なら給付基礎金額×313日分、第2級なら給付基礎金額×277日分、といった具合ですね。ちなみに、傷病等級はケガや病気の具合から判断されます。
3-4.障害補償給付・障害給付
仕事中や通勤中に負ったケガや病気が治った時、身体に一定の障害が残った場合は、障害(補償)給付が支給されます。
傷病(補償)年金と同様に、障害(補償)給付にも、障害の具合から障害等級といった等級が決められています。この障害等級によって、支給される金額が変わってきます。
3-5.遺族補償給付・遺族給付
仕事中や通勤中に亡くなってしまった場合、亡くなった労働者の遺族に遺族(補償)給付が支給されます。
給付金額は、遺族の人数や亡くなった労働者の収入などによって決められます。ちなみに、ここでいう遺族は、亡くなった労働者と生計を同じにしていた人のことを指します。
3-6.葬祭料・葬祭給付
仕事中や通勤中に亡くなった労働者の葬祭を執り行った人には、葬祭料(葬祭給付)が支給されます。
通常は亡くなった労働者の遺族が給付対象になりますが、葬祭を執り行う遺族がいなくて勤め先の会社が葬祭を執り行えば、その会社に葬祭料(葬祭給付)が支給されます。
葬祭料(葬祭給付)の支給額は、315,000円に亡くなった労働者の給付基礎金額の30日分を加えた金額となっています。
もしも、この金額が給付基礎金額の60日分よりも少なければ、給付基礎金額の60日分が葬祭料(葬祭給付)の支給額になります。
3-7.介護補償給付・介護給付
仕事中や通勤中に負ったケガや病気が原因で、一定の障害を抱えてしまい、介護を受けている場合は介護(補償)給付が支給されます。
障害の状態や、現在受けている介護の状況によって、支給される金額は大きく異なってきます。
4.事故にあった場合に行う労災保険の手続きの流れ
そうですね、具体的に教えますね。まず、つか夫さんは病院に行って、医師に診断してもらいます。
労災病院や労災指定病院など指定医療機関の場合は、この指定医療機関を経由して所轄の労働基準監督署に、療養(補償)給付の請求書を提出します。後は労働局や厚生労働本省が自動的に手続きを進めてくれて、指定医療機関に医療費が振り込まれます。なので、つか夫さんは特に医療費を支払う必要なく済みます。
指定医療機関以外の病院なんかで診断を受けた場合は、まずその病院に医療費を全額支払います。その後、所轄の労働基準監督署に療養(補償)給付の請求書を提出し、厚生労働本省によって支払ったお金を振り込んでもらうという流れですね。
もし、ですよ。つか夫さんのケガの症状がひどく、仕事を休んで入院しなければならなくなったら、休業(補償)給付の請求書を所轄の労働基準監督署に提出する必要があります。すると、労働基準監督署から支給決定通知が届きます。労災保険の適用が無事に認められれば、厚生労働本省から休業(補償)給付が支給されるようになります。
療養(補償)給付が支給されていたら休業(補償)給付は受け取れない、という決まりはないので、どちらももらっておきましょうね。
5.まとめ
- 労災保険とは、労働者の負傷、疾病、障害、死亡等を保障するもの
- 労災保険は、仕事中と通勤中の労働者を保障する
- 労災保険の給付には以下のような種類がある
- 療養補償給付・療養給付
- 休業補償給付・休業給付
- 病補償年金・傷病年金
- 害補償給付・障害給付
- 遺族補償給付・遺族給付
- 葬祭料・葬祭給付
- 介護補償給付・介護給付
さぁ、そろそろ病院に向かいましょうか。
ほら、明日にすれば遅刻して会社行けるし……!
イタイナーイタイナーハヤクビョウインイカナイトナー。