ケガや病気になった時、私たちは社会保険から「労災保険」と「健康保険」、どちらかの給付を受けることができます。中でも、健康保険に含まれる「傷病手当金」の制度は、私たちの金銭的な負担を大きくカバーしてくれる補償のひとつ。しかし、この制度は自分で申請しない限り、給付を受けとれない特徴を持ちます。申請漏れによって損をしないよう、今回は傷病手当金で最低限知っておくべき知識をご紹介します。
まずは、ケガや病気時にどんな給付が出るのか、その点の確認からしていきましょう。
目次
1.ケガや病気の時に給付が受けられる社会保険とは?
個人で加入する保険ではなく、一般的に私たちが利用できる社会保険。その中で、「労災保険」と「健康保険」は、ケガや病気時に心強い援助をしてくれます。
1-1.労災保険
ケガや病気の原因が仕事中や通勤途中に起きた出来事なら、勤務先で加入している労災保険から治療費や所得補償を受けることができます。原則として本人負担ゼロで各種の給付が受けられますよ。
1-2.健康保険
ケガや病気の原因が業務外(プライベート)に起きた出来事なら、加入している健康保険から給付を受けることができます。この場合、医療費の負担は普段病院を利用する時と同じで原則として3割負担です。つまり、7割は健康保険から給付されるわけですね。
さらに、健康保険では「傷病手当金」という、所得を補償をしてくれる制度があります。
2.意外に知られてない? 健康保険の制度「傷病手当金」
傷病手当金は、プライベートな理由による病気やケガで働けなくなった場合に、健康保険から所得を補償してもらえるという制度です。働けなくなってしまった時に、減給される部分を補てんしてくれるわけですね。
2-1.貰えるのは誰?
傷病手当金は健康保険に加入している本人であれば誰でも支給の対象となります。つまり、健康保険にさえしっかりと加入していれば契約社員やパート、アルバイトであっても傷病手当金を受けられるわけです。あくまでも健康保険の制度ですから、正社員に限った制度ということではありません。
ただし、自営業やフリーランスといった方が加入する「国民健康保険」には、そもそも傷病手当金の制度が存在しませんので、注意してください。
2-2.どうすれば貰えるの?
傷病手当金を実際に受給するためには、以下の3つの要件を満たし、その後加入している健康保険組合に申請をする必要があります。
2-2-1.「治療の必要」があること
当たり前のように聞こえますが、「ケガや病気に実際にかかっていて治療を受ける必要がある状態」が第1の条件になっています。裏返して言えば、ケガや病気にさえなれば基本的には理由を問わずどんな症状でもこの1つ目の要件は満たすことになります。
例えば、休日のスノボを楽しんでいる時に滑って骨折したり、ガンなどの病気にかかってしまったりした場合であっても、治療の必要性があれば条件を満たすことになります。(ただし、ケンカや犯罪行為など明らかに自分に非がある場合は、健康保険の給付は傷病手当金を含め一切受けられないことがあります)
2-2-2.「労務不能」な状態であること
「労務不能な状態」とは、病気やケガが原因で働けない状態であることを指します。「労務不能な状態」にあるかどうかは医師が判断することになり、入院している場合だけではなく通院している場合であっても「労務不能」と診断されることがあります。入院か自宅療養かはここでは問題にならないわけですね。
最終的な判定は傷病手当金を支払う健康保険協会や健康保険組合が判断しますが、通常は医師が「労務不能である」と診断すればこの要件は満たせます。
2-2-3.「待期期間」を満たすこと
3つ目の要件に「3日間の待期期間」というものがあります。これは、傷病手当金の支給は仕事を休み始めて4日目から支給されますよ、という意味です。
最初の3日間は対象外なので、ちょっとした病気やケガで数日会社を休んだだけでは傷病手当金は支給されないわけですね。ちなみに、この待期期間というのは「連続して3日間」でなければいけません。休んだり出勤したりを繰り返していると、いつまでもこの待期期間を満たすことができなくなってしまうので注意が必要です。
休みが必要な時は無理せずにゆっくり休んでしまった方が症状の治りも早いですし、傷病手当金の認定もスムーズに行われますよ。欠勤しているかどうかは関係なく、有給休暇を取得して休んだ日や土日祝日も待期期間として計算されることになります。
ただし、4日目以降で有給休暇を利用すると、利用日は傷病手当金の支給対象日にカウントされません。傷病手当金の受給中には、有給休暇が使用できないことを覚えておきましょう。
2-2-4.絶対に忘れてはいけない傷病手当金の申請
傷病手当金は、自分から申請しないと支給を受け取ることができません。なので、3つの要件を満たしたら、必ず加入している健康保険組合に申請を行ってください!
申請方の流れは以下の通りです。
1.病気・ケガの発生 2.会社に報告 3.申請書を準備 4.医師に証明書の作成を依頼 5.会社に証明書の作成を依頼 6.健康保険組合に申請書を提出 |
まず、病気やケガをしてしまったら、病院で治療費や治療期間の確認を取りましょう。その情報をもとに会社と相談して、傷病手当金を利用すると良いですね。有給休暇を使うか、傷病手当金を受給するか、一度検討すべきです。
傷病手当金を受給することになったなら、加入している健康保険のHPから申請書をダウンロードしましょう。申請書を印刷できない環境の場合は、窓口にて直接受け取ることができます。
申請書の準備ができたら、次は医師に証明書を作成してもらいます。申請書に担当医師の証明欄があるためですね。同じように、事業主の証明欄には、会社から証明書をもらってください。
申請書が完成したら、加入している健康保険組合に提出すればOKです。郵送か窓口に直接行くかで提出してくださいね。
2-3.どの位もらえるの?
3つの要件を満たすことで、ようやく傷病手当金は支給されます。ただ、この金額は誰にとっても同じではなく、それぞれの収入額に応じて計算されます。具体的には、下記の計算式で金額が決定されますよ。
「直近1年間の『標準報酬月額』の平均額の30分の1」×3分の2=1日当たりの傷病手当金 |
標準報酬月額は複雑な計算で算出されますが、基本的に毎月の給与の額面額(様々な保険料や税金などが天引きされる前の額)と同じだと考えて大丈夫ですよ。
傷病手当金の支給期間は、同一の病気やケガについて1年半まで支給されます。つまり、傷病手当金とは月給の約3分の2程度が最長で1年半の期間、健康保険から補償されるという制度なのです。
3.年収400万円の田中さんがケガで1ヶ月休んだ場合
では、ここからは具体的なケースとして、どのくらいの収入の人がどのくらいの傷病手当金を貰える可能性があるのかを確認していきましょう。
年収400万円の田中さんがケガをしてしまい1ヶ月間(待機期間を除く)会社を休んでしまった場合、傷病手当金の額はどのくらいになるのでしょうか?
おさらいですが、傷病手当金の金額を計算するための式は以下の通りになります。
「直近1年間の『標準報酬月額』の平均額の30分の1」×3分の2=1日当たりの傷病手当金 |
計算を簡単にするために、田中さんはボーナスのない年俸制で、月々の月収は年収400万円を12で割った約34万円とします。
「標準報酬月額」の平均額の30分の1……34万円÷30=11,333円 1日当たりの傷病手当金額……11,333円×3分の2=約7,560円 30日間の支払い……7,560円×30=226,800円 |
つまり、働けなくなっても田中さんには約23万円が傷病手当金として支給されるわけですね。
4.年収600万円の鈴木さんが病気で1年間休んだ場合
もっと長期間休んだ場合の金額についても確認していきましょう。ここでは、年収600万円の鈴木さんが1年間病気で休んだ場合の金額を試算して見ます。
計算を簡単にするために、鈴木さんも年俸制で、月収は12分の1である50万円とします。
「標準報酬月額」の平均額の30分の1……50万円÷30=16,666円 1日当たりの傷病手当金額……16,666円×3分の2=約11,100円 1年間(365日)の支払い……11,100円×365=4,051,500円 |
およそ405万円が、トータルで受け取れる傷病手当金額になりますね。
5.まとめ
- 傷病手当金は、ケガや病気で働けなくなった時に、所得を補償してくれる健康保険の制度
- 傷病手当金は健康保険の加入者が対象になる(※国民健康保険を除く)
- 傷病手当金の受給要件は3つ
- 「治療の必要」があること
- 「労務不能」な状態であること
- 「待期期間」を満たすこと
- 傷病手当金は、必ず自分で申請しなければならない
- 傷病手当金の受給額は、給料のおよそ3分の2
- 年収400万円の人がケガで1ヶ月休んだ場合の支給額……約23万円
- 年収600万円の人が病気で1年間休んだ場合の支給額……約405万円
医療保険を検討する際も、健康保険からの支給額を知っておけば、ムダに保障内容を厚くすることもありません。
保険料の負担って結構大きいし、社会保険でカバーできるんだったら余計にお金を払いたくないよね。
この記事の監修者:松永大輝
保有資格:社会保険労務士、AFP、産業カウンセラー
大手社労士事務所にて労働法や社会保険の専門家として10社ほどの顧問先を担当。本業のかたわら、大手通信教育学校の社労士講座非常勤講師として講義やテキスト執筆・校正を行う。講師、Webライターなど幅広く活動中。