労災保険で治療費が無料、給料の8割が支給?【具体例から貰える金額を解説】

労災保険

仕事中や通勤中に怪我をしてしまった、という話は誰もが聞いたことがある話だと思います。また、仕事や通勤中の出来事が原因で病気にかかってしまうということもあり得る話です。もしそんなことが起こってしまった場合、「労災保険」という社会保険から色々な給付を受けられます。ですが、労災保険をちゃんと理解している人は少ないのではないでしょうか。

もちろん、詳細についてまできちんと把握している必要はありませんが、概要だけでも把握しておかないと、本当は必要のない余分な民間の保険に加入してしまうことにもなりかねません。

そこで、今回は「労災保険」とはどういった内容の保険なのか、いつ何がどの位貰えるのかを具体的なケースを紹介しながら解説します。

会社で働く人であれば労災保険に関する理解は必須ですよ!

節子

今回は「労災保険はどんな時に、いくらもらえるか?」について説明したいと思います。
労災保険の存在は知っていても、使い方を知らなければ「絵に描いた餅」ですからね。どんな時にどの程度のお金が支給されるのか、しっかり確認していきましょう。

つか夫

仕事に生きる僕としては、確実に抑えておきたい話だね、うんうん。

1.労災保険とはどんな保険?

労災保険とは

まず労災保険がどのような保険なのかを確認しておきましょう。

労災保険とは、仕事や通勤中に起こった病気やケガなどを補償するための保険です。政府が運営している「社会保険」ですから、加入対象となるのは「雇われている人全員」です。つまり、会社にお勤めの方であれば自動的に労災保険に加入しているということになりますね。

労災保険は労働者であれば自動的に対象となる保険ですから、仮に会社が「当社は労災保険に入ってないよ」と言ったとしても、それは単に会社が「加入の手続き」を怠っているだけに過ぎないので、そのような会社に勤めていても、労災保険の給付は受けることができます。(この場合会社に高額な保険料の請求が行く可能性が高いです)

ただ、こうして労災保険の解説をすると「健康保険」との違いに混乱される方が多いのではないかと思います。お勤めの方であれば、手元に「健康保険証」があるかと思いますが、あの保険証は業務外、つまりプライベートでの病気や怪我で使うものになるのですね。

休みの日に遊んでいてケガをした・・・使うのは「健康保険
仕事中や通勤中に転んでケガをした・・・使うのは「労災保険

というように、プライベート用の保険が健康保険、ビジネス(仕事・通勤)用の保険が労災保険、というようなイメージを持ってもらえればいいかと思います。

2.通勤途中に転倒して骨折した鈴木さん(30歳・年収400万円)が労災保険から貰える金額は?

通勤 骨折 労災保険

では、ここからは具体的なケースごとにもらえる給付を見ていきましょう。

通勤のうち、とくに朝の出勤では急いで出かけることも多いため、走って移動しているうちに転倒してケガをしてしまう方が多いです。

普通の道でただ軽く転ぶだけなら軽傷で済みますが、階段など危険な場所で足を踏み外してしまった場合、重症なら骨折して数ヶ月間働けなくなる可能性も考えられます。

では、仮に通勤途中に階段から転げ落ちてしまって足を骨折し、3ヶ月間会社を休まなければならなくなった鈴木さんという方がいたとしましょう。

この鈴木さんの場合、労災保険の取り扱いはどうなるでしょうか。

2-1.病院で保険証を出すのはNG!

労災発生時にまず気をつけたいのは、健康保険の保険証を病院で絶対に提示しないということです。

健康保険は「プライベート用」、つまり業務外の病気やケガなどを対象とした保険なので、仕事中・通勤中のケガではこの保険証は使えません。知らずに健康保険を使ってしまい、後になって実は労災だったということが判明すると、治療費を一旦全額支払い、その上で改めて労災保険に治療費を請求し直すという非常に手間のかかる手続きが必要になります。

仕事中や通勤中のケガで病院を受診する場合には、決して保険証は見せず「労災です」と申告しなければならないということを最低限覚えておきましょう。

2-2.労災保険では治療費は原則「無料」

普段病院で診察を受ける場合、保険証を提示して医療費の3割を窓口で支払っていると思いますが、労災保険では仕事中・通勤中にケガをした場合には原則として本人負担はありません。

通勤中であっても、それは仕事のための移動なので、本人に負担を強いることはせず労災保険で医療費を全額カバーしているのですね。

そのため、労災によって病気やケガをしてしまった場合であっても、窓口での負担は一切なく無料で医師の診察や治療を受けることができます。労災保険というのはいざという時にはとっても安心な社会保険制度なのですね。

2-3.休業中は月給の8割が労災保険から補償

鈴木さんのようにケガが原因で一定期間働けない場合、その原因がたとえ通勤中に転倒したというものであっても、月給の8割程度が労災保険から支給されます。

さすがに給与全額の補償ではありませんが、治療費は無料、月給の8割が補償されるのであれば少しは安心して治療に専念できるのではないでしょうか。

2-4.鈴木さんが貰える金額は?

では、結局のところ鈴木さんが労災保険から受け取ることの出来る給付の総額はいくらになるのでしょうか……?

◆治療費
→金銭的な負担は「ゼロ」で治療を受けることができますから、お金を直接受け取れるという訳ではありません。ただ、治療費が無料になります。

◆生活補償
→「休業給付」として、労災保険から月給の8割程度を受け取ることができます。鈴木さんの年収は400万(年俸制とします)ですから、月給換算すると33.3万円になります。この8割を休んだ3ヶ月分受け取れる事になりますから、鈴木さんには「80万円」が労災保険から所得補償として支給されるわけですね。

3.営業で移動中に車に轢かれて障害が残ってしまった田中さん(40歳・年収600万)が労災保険から貰える金額は?

障害 労災保険

別のケースも見ていきましょう。

営業職で移動が多いような方にとっては、移動中に交通事故を起こしてしまうリスクは非常に高いものです。ここの例に挙げる田中さんは取引先へ移動する最中に車に轢かれてしまい、最終的にには体に障害が残ってしまうことになってしまいました。

田中さんの場合においても、治療費や働けない期間についての補償は鈴木さんと同様に取り扱われることになります。つまり、治療費は無料、休業補償として月給の8割程度が貰えることになります。

3-1.長期間治らない場合は「傷病補償年金」

ケガや病気が1年半以上経っても治らない場合は休業補償給付が傷病補償年金に切り替わることがあります。金額はケガや病気の程度により変わりますが、「年金」という形式で2ヶ月に1回支給されることになります。

3-2.障害が残った場合は「障害補償年金」

治療の余地がまだ残っていれば休業補償給付や傷病補償年金が支給されますが、これ以上治る見込みがなかったり、症状が固定したりして「障害」が残ってしまった場合、障害補償年金という年金が支給されることになります。こちらも、金額についてはその障害の酷さによって大きく変動します。

3-3.田中さんが貰える金額は?

仮に田中さんが一番重い障害(傷病等級1級・障害等級1級)だった場合、どの程度の給付が貰えるのかを確認してみましょう。

◆治療費
→金銭的な負担は鈴木さん同様「ゼロ」になります。

◆生活補償(1)
→最初の1年半は「休業補償給付」として、鈴木さんと同様月給の8割程度を受け取ることができます。田中さんの年収は600万(年俸制とします)ですから、月給換算すると50万円になります。この8割を休んだ1年半の間に受け取れる事になりますから、田中さんには「720万円」が1年半の間の所得補償として労災保険から支給されます。

◆生活補償(2)
→治療から1年半経っても治らない場合、休業補償給付が「傷病補償年金」に切り替わります。傷病等級1級の場合はおおよそ日給の313日分が年金として支給されることになりますから、年収600万円の田中さんの場合は「約520万円」が年金として受け取れます。

◆生活補償(3)
→治る見込みがなくなり、障害が残ってしまった場合には傷病補償年金が「障害補償年金」に切り替わります。ただし、田中さんの場合は傷病補償年金と同額ですから、障害が残り続ける間、「約520万円」が年金として受け取れます。

4.まとめ

  • 労災保険とは、仕事や通勤中に起こった病気やケガを補償する保険
  • 通勤途中の転倒で骨折した鈴木さん(30歳・年収400万円)が受けられる労災保険
    • 治療費……全額無料
    • 生活補償……80万円の所得補償
  • 営業移動中の事故で障害が残った田中さん(40歳・年収600万)が受けられる労災保険
    • 治療費……全額無料
    • 生活補償①……720万円の所得補償
    • 生活補償②……約520万円の傷病補償年金
    • 生活補償③……約520万円の障害補償年金
節子

このように、具体的なケースで確認すると労災保険がどういった補償をしてくれるのかがわかりやすいと思います。

つか夫

うん!
どんな場合に労災保険を活用できるのかもよくわかったよ!

節子

こういった社会保険があることを知らずに医療保険に加入すると、必要以上に保障を付けてしまいます。余計な保障のせいで、保険料をムダに支払うことは避けるようにしましょう。

つか夫

どんな社会保険が僕たちを補償してくれるのか、まずはそれを知ることだね!

 

松永 大輝

この記事の監修者:松永大輝

保有資格:社会保険労務士、AFP、産業カウンセラー

大手社労士事務所にて労働法や社会保険の専門家として10社ほどの顧問先を担当。本業のかたわら、大手通信教育学校の社労士講座非常勤講師として講義やテキスト執筆・校正を行う。講師、Webライターなど幅広く活動中。